2022年01月07日
今週の注目疾患
2021年 第 52 週(第 51 週合併号)(2021/12/20~2022/1/2)
【今週の注目疾患】
≪鳥インフルエンザ A(H5N1)≫
2021 年 12 月に令和 3 年度(2021/22 シーズン)において最初の報告となる鳥インフルエンザA(H5N1)の鳥類患畜が 1 例報告された。
発生場所は市川市で、12 月 5 日にあひる、あいがもが疑似患畜と確認された。
同日防疫措置(殺処分及び施設の清掃・消毒等)が完了し、12 月 27日に移動制限区域は解除となった1)。
なお、人への感染は報告されていない。
日本では、平成 29 年度(2017/18 シーズン)から令和 3 年度(2021/22 シーズン)までの間に62 事例の報告があり、全て 11 月から 3 月の期間に報告されている。
令和 2 年度(2020/21 シーズン)は全国で 52 事例の高病原性鳥インフルエンザの家きん類感染事例報告があった。
亜型は全て A(H5N8)であり、うち 11 例(21%)が県の事例であった。
令和 3 年度(2021/22 シーズン)は全国で 9 事例が報告されており、うち A(H5N1)が 7 事例(78%)、A(H5N8)が 2 事例(22%)であった(2021 年 12 月 27 日時点)2)。
近年は、N7 を除く N1-N9 NA 亜型の高病原性鳥インフルエンザを引きおこす A/H5 亜型ウイルスが家きんや野鳥に蔓延し、2020 年 9 月以降、世界各地の家きんや野鳥から A/H5 亜型ウイルスが検出され、2016/17 シーズン以来の大流行となっている3)。
OIE-WAHIS(国際獣疫事務局)の直近の Situation Report(対象期間 2021 年 11 月 18 日-12月 8 日)によると、ヨーロッパ、アジア地域で家きんと野鳥からの A/H5 亜型ウイルスの検出が多く見られた。
世界の鳥インフルエンザウイルスの地域間伝播には渡り鳥が関連していると考えられており、一般に鳥の渡りが始まる秋口(10 月)頃から増加し始め、2 月頃に発生ピークを迎える場合が多いとされる4)。
2021 年 10 月には世界でおよそ 16,000 例の鳥類の HPAI 症例が報告されており、OIE-WAHIS はウイルス循環のリスクが高まっていると警戒を呼び掛けている5)。
A/H5 亜型ウイルスのうち、人感染例の報告があるのは、HPAI の A(H5N1)、A(H5N6)、A(H5N8)ウイルスである。
A(H5N1)は 2020 年 9 月以降、2020 年 10 月にラオスで 1 例、2021年 6 月にインドで 1 例の人感染例が確認された。
A(H5N6)ウイルスは主に中国などで人感染例が確認されている。
2020 年 9 月以降は、中国で 13 例、ラオスでは 1 例が 2021 年 2 月に確認された。
また、A(H5N8)ウイルスでは初となる 7 例の人感染例が、2020 年 12 月にロシアで確認された3)。
いずれもほとんどが家きん等の鳥類との濃厚接触歴がある症例であり、これまでに持続的な人-人感染例の報告は確認されていない6)。
鳥インフルエンザは主に鳥に対して感染性を示す A 型インフルエンザウイルスの人獣共通感染症である。
A 型インフルエンザウイルスはウイルスの表面にあるたんぱく質 HA(ヘマグルチニン)と NA(ノイラミニザーゼ)の性状により、16 の HA 亜型と 9 の NA 亜型に分類され、感染性や重症度は感染した動物やウイルスの系統によって異なる。
16 の HA 亜型のうち、これまでH5 亜型と H7 亜型から高病原性鳥インフルエンザウイルスが出現している7)。
国の感染症法ではA(H5N1)と A(H7N9)鳥インフルエンザが 2 類感染症に指定されており、それ以外の亜型の鳥インフルエンザは 4 類感染症に指定されている。
鳥インフルエンザは感染した鳥やその排せつ物、死体、臓器等に濃厚接触したなど特殊な状況を除き、通常人に感染することはほとんどないと考えられている。
しかし、人が鳥インフルエンザ A(H5N1)に感染した場合には、重篤な症状になることが多い6)。
また、野鳥や家きん間で感染を繰り返すうちにウイルス変異が生じ、新たな特性を有する高病原性ウイルスが出現する可能性も否定できないため、注意が必要である。
発症予防のためには、認可されているワクチンが現時点ではないため、鳥類やその排せつ物、死体、臓器等への接触を避け、むやみに触らない、やむを得ず濃厚接触する場合には適切な感染防護(PPE、手袋、マスク、ゴーグルを装着)を実施する、生きた鳥が売られている市場や養鶏場にむやみに近寄らない、手洗いの励行、咳エチケットをこころがけることなどがあげられる。
なお、鳥インフルエンザが発生した場合でも家畜伝染病予防法により感染が確認された鶏の肉や卵が市場に出回ることはない。
また、内閣府食品安全委員会は万が一鶏肉・鶏卵に鳥インフルエンザが存在したとしても、熱や酸に弱いことから、十分な加熱調理や胃酸などの消化液により死滅するため、鶏肉・鶏卵を食べることにより感染することはないという考えを示している2)。
■参考
1)千葉県:高病原性鳥インフルエンザについて~県民の方々へ~
>>詳細はこちら
2)農林水産省:鳥インフルエンザに関する情報
>>詳細はこちら
3)国立感染症研究所:IASR Vol. 42, No.11 (No. 501)
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4)OIE-WAHIS:HIGH PATHOGENICITY AVIAN INFLUENZA (HPAI) SITUATION REPORT13/12/2021
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5)OIE-WAHIS:The World Organisation for Animal Health (OIE) calls for increasedsurveillance of avian influenza as outbreaks in poultry and wild birds intensify
>>詳細はこちら
6)厚生労働省:鳥インフルエンザについて
>>詳細はこちら
7)千葉県:野鳥における鳥インフルエンザについて
>>詳細はこちら
【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年1月7日更新)