2022年12月02日

2022年 第 47 週(2022/11/21~2022/11/27)

【今週の注目疾患】
■後天性免疫不全症候群
 12 月 1 日は世界エイズデーである。
後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)のまん延防止及び患者・感染者に対する差別・偏見の解消を目的として 1988 年に WHO(世界保健機関)が 12月 1 日を世界エイズデーと制定し、AIDS に関する正しい知識の普及啓発を推進している 1)。
 AIDS はヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染によって生じ、適切な治療が施されないと重篤な全身性免疫不全により日和見感染症や悪性腫瘍を引き起こす状態をいう 2)。
近年では、治療法の進歩により、HIV 感染を早期に発見し、治療を開始すれば、AIDS の発症を防ぐことができ、感染前とほとんど変わらない生活を送ることが期待できるようになっている。
また、治療を継続して体内のウイルス量が減少すれば、HIV に感染している人から他の人への感染リスクが大きく低下することも確認されている。
県では保健所において無料・匿名の検査を実施しているとともに、休日街頭 HIV 検査も実施している。
また、(公財)ちば県民保健予防財団への委託による検査も実施している。
居住地に関係なく、どの保健所でも受検することができる 3)。
希望する方は活用されたい。
なお、新型コロナウイルス感染症の流行状況に伴い、変更される場合もあるので、最新の検査実施状況については、県ホームページ等でご確認いただきたい。

千葉県:千葉県内のエイズ等相談・検査
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 2022 年第 1 週から第 47 週までの後天性免疫不全症候群累計報告数は 22 例であった。
全て男性であり、年代別では、30 代が 8 例(36%)、20 代が 7 例(32%)、40 代が 5 例(23%)であり、20~40 代が全体の 9 割以上を占めていた。
国籍別では日本国籍が 16 例(73%)、外国籍が 6 例(27%)であった。
病型別では AIDS 患者が 12 例(55%)、無症候性キャリアが 9 例(41%)、その他(AIDS指標疾患以外の疾患有)が 1 例(5%)であった。
 累計報告数は、近年減少傾向がみられている。
一方、後天性免疫不全症候群の報告数全体に占める AIDS 患者報告数の割合は、2015 年から 2019 年までは減少傾向にあり、2019 年は27%であったが、2020 年から増加傾向が続いている。
2021 年は AIDS 患者と無症候性キャリアの割合が逆転し、2022 年は AIDS が 55%、無症候性キャリアが 41%とその差がさらに開いた。

 2013 年から 2022 年第 47 週までに県内では後天性免疫不全症候群の報告が 465 例あった。
報告に記載のあった推定される感染原因※は、同性間の性的接触が 244 例(52%)と最も多かった。
次に異性間の性的接触が 123 例(26%)であった。
また、少数ではあったが、静注薬物使用などが原因として推定されるケースもあった。(※複数の推定感染原因が記載されている場合には、重複して計上している)
 HIV の主な感染経路は、①性的接触、②母子感染(経胎盤、経産道、経母乳感染)、③血液によるもの(輸血、麻薬・薬物の静脈注射など)がある。
血液や体液を介する接触がない限り、日常生活では HIV に感染する可能性は低い 2)。
性行為による感染は最も多く、HIV は感染者の血液・精液・膣分泌液から、性器や肛門、口などの粘膜や傷口を通って感染する。
感染を予防するワクチンはなく、性行為におけるコンドームの正しい使用や血液が付着する可能性のある器具を共有しないことなどが重要となる 4)。

 HIV 感染の自然経過は感染初期、無症候期、AIDS 発症期の 3 期に分けられる。
HIV 感染成立後の 2~3 週間後には発熱、咽頭痛、頭痛などの症状が出現する(感染初期)。
症状は全く無自覚の場合もあるが、この時期に診断ができるとその後の治療や経過に圧倒的に有利になることから、他の性感染症(梅毒、淋病など)とこれらの急性感染症状が同時にある時には、HIV 感染を疑うことが重要である。
無症候期を経て、数年~10 年後、HIV 感染が進行すると通常の免疫状態ではほぼ起こらない日和見感染症や悪性腫瘍を発症する(AIDS 発症期)。
治療には早期診断、早期治療開始が最も重要である 2)。
 HIV は主に性行為により感染することから、他の性感染症に罹患する可能性も高い。
特に近年報告数が急増している梅毒は HIV 感染者に広く伝播していることが示唆されている。
梅毒による性器の潰瘍性病変は HIV 感染を助長する一因となっていることが懸念される 5)。
 新型コロナウイルス感染症の流行により報告数が大きく減少した疾患がある一方で、梅毒は2021 年、2022 年と 2 年連続で過去最多報告数を更新している。
早期治療と感染拡大防止には早期発見が重要となることから、気になることや不安に思うことがある場合には、積極的に性感染症の検査を受検されたい。

■参考
1)厚生労働省:12 月 1 日は「世界エイズデー」
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2)国立感染症研究所:AIDS(後天性免疫不全症候群)とは
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3)千葉県:HIV 感染者・エイズ患者の報告状況について
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4)公益財団法人エイズ予防財団:エイズ予防情報ネット(エイズ Q&A)
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5)国立感染症研究所:国立感染症研究所:HIV 関連梅毒の特徴
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【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年11月30日更新)