2022年08月05日

2022年 第 30 週(2022/7/25~2022/7/31)

【今週の注目疾患】
■手足口病
警報発令継続中(警報開始基準値 5.0 終息基準値 2.0)
 2022 年第 30 週手足口病定点当たり報告数 県全体 7.67(人) 前週 6.70(人)から増加第 27 週に警報開始基準値である定点当たり報告数5.0(人)を上回って以降、県内では大きな流行状況が続いており、感染予防として手洗いの励行等が重要である。

■腸管出血性大腸菌感染症
 2022 年第 30 週に県内医療機関から腸管出血性大腸菌感染症が 10 例報告され、2022 年の累計は 73 例となった。
 報告された 73 例のうち、性別では女性 47 例(64%)、男性 26例(36%)であり、女性が多い。
年代別では 20 代が 19 例(26%)と最も多くみられ、次いで 10 代10 例(14%)であった。
患者は48 例(66%)、無症状病原体保有者は 25 例(34%)であった。
O 血清群別・VT 型別では O157・VT1VT2 が 31 例(42%)で最も多く、次いで O157・VT2 が 9 例(12%)、O121・VT2 が 8 例(11%)であった。
 また、第 29 週には本年 1 例目となる溶血性尿毒症症候群(HUS)が報告された。
患者は 20 代の女性であり、O 血清群や VT 型は不明であった。
溶血性貧血や急性腎不全等の症状を示したが、7 月 28 日現在、快方に向かっている 1)。

 HUS は 2018 年以降、県内では計 14 例が報告されている。
14 例のうち、性別では女性 8 例(57%)、男性 6 例(43%)で女性が多い。年代別では 0-4 歳が 5 例(36%)で最も多く、次いで 5-9 歳が4例(29%)、10 代が 2 例(14%)であった。
O 抗原別では血清型が確認できた 9 例のうち 5 例(56%)を O157 が占めており、毒素型ではベロ毒素が検出された 8 例のうち VT1VT2 が4 例(50%)、VT2 が 3 例(38%)と VT2 産生株が大部分を占めていた。

 腸管出血性大腸菌感染症の原因菌はベロ毒素(VT)を産生する大腸菌である。
人を発症させる菌数はわずか 50 個程度と考えられている。
少ない菌数で感染が成立するため、人から人への二次感染が起きやすい。
腸管出血性大腸菌は強い酸抵抗性を示し、胃酸のなかでも生存する 2)。

 腸管出血性大腸菌は、家畜などの腸管内に生息しており、感染経路は糞便に汚染された食品や手指などを介した経口感染である。
 症状は無症候性から軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便、さらに著しい血便とともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで様々である。
多くの場合、3~5 日間の潜伏期を経て、激しい腹痛を伴う頻回の水様便の後に血便となる。
発熱は軽度で 37℃台である。血便の初期には血液の混入は少量であるが、次第に増加し、典型例では便成分の少ない血液そのものという状態になる。
有症者の 6~7%において、下痢などの初発症状発現の数日から 2 週間以内に溶血性尿毒症症候群(HUS)または脳症などの重篤な合併症が発生する。
HUS を発症した患者の致死率は 1~5%とされている 2)。
HUS は血栓性微小血管炎による急性腎不全で、①破砕状赤血球に伴う貧血、②血小板減少、③腎機能障害を 3 徴とする。
激しい腹痛や血便を示す典型的な出血性大腸炎の症例の約10%に発症する可能性があるが、稀に血便症状がなくても起こる。
注意すべき症状としては、顔色不良、乏尿、浮腫、意識障害などがある 3)。

 腸管出血性大腸菌感染症の予防の方法として、食品を介した経口感染(食べ物から人への感染)に対しては、食肉類は中心部までよく加熱すること(中心部が 75℃1 分間以上の加熱)、生肉を触った後の手指、調理器具はよく洗浄して消毒すること、まな板等の調理器具は用途別に使い分けること、生肉を取り分ける箸(トング)と焼きあがった肉を取り分けたり食べたりする箸(トング)を使い分けること、加熱しないで食べる野菜や果物は、十分に洗浄の上、必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌することが重要である 4)。
 手指を介した経口感染(人から人への感染)に対しては、手洗いが最も重要である。
排便後や食事前はもちろんのこと、特に下痢をしている乳幼児や高齢者の世話をする際には、使い捨て手袋を用い、作業後には石けんと流水でよく手を洗う。
腸管出血性大腸菌は、少量の菌数で感染が成立するので、乳幼児や高齢者が集団生活を行う場合や家庭内などでは二次感染の防止が重要である 3)。

■参考
1) 千葉県:腸管出血性大腸菌(血清型不明)による溶血性尿毒症症候群(HUS)の発生について(令和 4 年 7 月 28 日)
>>詳細はこちら
2)国立感染症研究所:腸管出血性大腸菌感染症とは
>>詳細はこちら
3)厚生労働省:一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157 等)感染症治療の手引き(改訂版)
>>詳細はこちら
4)千葉県:腸管出血性大腸菌について
>>詳細はこちら

【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年8月3日更新)