2022年07月22日
2022年 第 28 週(2022/7/11~2022/7/17)
【今週の注目疾患】
■手足口病
2022 年第 28 週に県内定点医療機関から報告された手足口病の定点当たり報告数は、20 週から 9 週連続で増加し、6.88(人)であった。
警報開始の基準値である 5.0(人)をこえており、大きな流行が継続しつつある。
発生報告が多かった地域は、海匝 46.00(人)、印旛 10.75(人)、松戸 9.53(人)保健所管内であった。
8 保健所管内(海匝、印旛、松戸、船橋市、習志野、柏市、千葉市、香取)で 5.0(人)をこえる大きな流行が発生しており、感染予防に十分留意する必要がある。
■バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症
2022 年第 1 週から第 28 週までに県内医療機関からバンコマイシン耐性腸球菌(以下、VRE)感染症の報告が 10 例あり、過去 10 年間で最も多い報告数となっている。
性別では男性 7 例(70%)、女性 3 例(30%)であり、男性が多かった。
年代別では、60 代以上の高齢者が 9例(90%)と多く、80 代 5 例(50%)、90 代 2 例(20%)、40 代、60 代、100 歳以上がそれぞれ1 例(10%)ずつであった。
保健所管内別では市川が 6 例(60%)、習志野が 2 例(20%)、船橋市が 1 例(10%)と東葛南部保健医療圏からの報告が 90%を占めており、多い傾向であった。
菌が分離された検体は、血液 3 例(30%)、尿 3 例(30%)、膿 2 例(20%)、胆汁 1 例(10%)、その他 1 例(10%)で、菌種は全てEnterococcus faecium であった。
VRE 感染症は 2013 年から 2022 年第 28 週までに 30 例の報告があった。
性別では男性 17 例(57%)、女性 13 例(43%)であり、男性が多かった。
年代別では、60 代以上が 8 割以上と大部分を占めており、80 代が 10 例(33%)で最も多く、次いで 70 代と 90 代がそれぞれ 5 例(17%)であった。
菌が分離された検体は、血液が 13 例(43%)で最も多く、次いで尿が 9 例(30%)、膿が 3 例(10%)であった。
菌種の記載があったものは 27 例であり、全て E. faecium であった。
VRE 感染症は、バンコマイシンに耐性を示す腸球菌による感染症である。
腸球菌属はグラム陽性球菌であり、腸管や環境に常在し、健常人の便培養から分離され、尿検体に混入することもある。
日和見病原体であり、高齢者、糖尿病、悪性腫瘍、心疾患、手術後患者などの感染防御能の低下した易感染宿主に菌血症、心内膜炎、尿路感染症、腹腔・骨盤内感染症などの感染症を引き起こす。
中でも、菌血症、心内膜炎は重症感染症であり、E. faecium による菌血症は致命率が高い。
日本において VRE 感染症は、1999 年 4 月から感染症法に基づく全数把握対象疾患となった。
報告数は 2011 年から 2019 年まで年間 100 例未満で推移してきたが、2020 年は 135 例となり、これまでで最多となった。
届出菌種の推移から、これらの増加の多くがバンコマイシン耐性 E.faecium によるものと推測されている。
VRE は医療施設関連尿路感染症(特にカテーテル関連、ならびにカテーテル未使用例も含む)の重要な起因菌であり、また心血管内カテーテル関連血流感染症、手術部位感染症などの原因にもなる 1)。
入院中の患者は院内の環境、もしくは、医療従事者や物品などを介して VRE を獲得したのち消化管内に保菌することが多く、その一部が発症する。
VRE の感染・保菌のリスク因子としては、抗菌薬曝露歴(特に第 3 世代セファロスポリンやバンコマイシン)、在院日数、重症度、侵襲的デバイス、ICU 入室、長期介護施設入所、VRE 保菌者もしくは汚染された環境への暴露などが知られている 1)。
ひとたび大規模な院内感染が発生した場合は、入院患者受け入れの一部制限など、医療体制に影響が及ぶだけでなく、転院などを介して地域内の他の病院や介護施設等へ VRE が拡散する可能性が高くなる 2)。
厚生労働省は VRE 感染症の届出があった際には地方衛生研究所等での試験検査に努めることとしている 3)。
また、保菌者も含め 1 例目の発見をもってアウトブレイクに準じた厳重な感染対策を実施するよう求めている 4)。
各施設における感染拡大防止には、全ての患者に対して感染予防策のために行う標準予防策(手洗い、手袋・マスクの着用等が含まれる)と必要に応じた感染経路別予防策(接触予防策)を実施する。
手指衛生については、手洗い及び手指消毒のための設備・備品等を整備する。
手洗いは患者や患者周辺の物品に触れる前後で行う。
接触予防策には個室管理が望ましく、標準予防策に加え、室内に入る際には手袋及びビニールエプロン(ガウン)を着用する 4,5)。
また、疫学的にアウトブレイクと判断した場合には、院内感染対策委員会又は感染制御チームによる会議を開催し、疫学的調査を開始するとともに、厳重な感染対策の実施(患者の速やかな隔離、周辺の接触者や環境へのスクリーニング検査の実施等 6))が重要となる 4)。
■参考
1)国立感染症研究所:IASR Vol.42 No.8(No.498)August 2021
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2) 2020 年におけるバンコマイシン耐性腸球菌感染症届出患者の増加について(国立感染症研究所)
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3)カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症等に係る試験検査の実施について
(厚生労働省通知平成 29 年 3 月 28 日健感発 0328 第 4 号)
4)医療機関における院内感染対策について
(厚生労働省通知平成 26 年 12 月 19 日医政地発 1219 第 1 号)
5)AMR 臨床リファレンスセンター:標準予防策と感染経路別予防策
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6)感染症教育コンソーシアム:中小病院における薬剤耐性菌アウトブレイク対応ガイダンス
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【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年7月20日更新)