2021年08月06日
今週の注目疾患 2021年 30週(2021/7/26~2021/8/1)
【今週の注目疾患】
【デング熱】
2021 年第 30 週に県内医療機関から本年初となるデング熱が 2 例報告された。
いずれも 40~50 代の男性で、海外への渡航歴があり、現地での感染が推定された。
過去 10 年間(2012 年以降)において県内で報告されたデング熱は合計 137 例で、毎年概ね 10~30 例程度報告されている。
診断月別では 8 月に診断された症例が 25 例(18%)で最も多く、次いで 9 月が 20 例(15%)、7 月が 15 例(11%)、10 月が 13 例(9%)の順となっており、国の報告 1)と同じく夏季~秋季に患者が多い傾向が見られた。
性別では男性が 85 例(62%)、女性が 52 例(38%)で男性が多い傾向があり、年代別では 30 代が 44 例(32%)と最も多く、次いで 20 代が 25 例(18%)、10 代が 22 例(16%)と続いており、30 代以下の若年者が多い傾向が見られた。
病型別では比較的軽微な症状のデング熱が 136 例(99%)でほとんどであり、重症型のデング出血熱は 2016 年の 1 例のみであった。
血清型別では、血清型が判明した 61 例のうち、2 型が 24 例、1 型が 22 例、3 型が 10 例、4 型が 5 例であった。
推定感染地別では 132 例(96%)が国外であり、大部分を輸入例が占めていた。
国別ではインドネシア、フィリピン、インド、タイ、カンボジア等の東南アジア諸国への渡航者が多く見られ、その他中東、オセアニア、アフリカ、南米等の地域への渡航者からも発生が報告されていた。
また、2014 年に 5 例国内感染例が報告されており、当該年に発生した東京都内の公園における集団発生事例 2)に関連している可能性が推定された。
保健所管内別では印旛保健所管内が 84 例(61%)と最も多く報告されていたが、そのうち 50 例が成田空港検疫所から報告された症例であった。
デング熱はフラビウイルス科フラビウイルス属のデングウイルスによっておこる急性発熱性疾患である。
比較的予後が良いとされるが、時にデング出血熱あるいはデングショック症候群として出血症状、血液循環不全、肝機能障害等重症化をきたす場合があるため、早期に適切な治療を行うことが重要である。
治療薬は存在せず対症療法が基本となる。
デングウイルスは蚊によって媒介されるウイルスの一種で、主な媒介蚊はネッタイシマカ(Aedes aegypti)およびヒトスジシマカ(Aedes albopictus)である。
デング熱は発熱する 1 日前から発症後おおむね 5 日目までの有熱期間にウイルス血症となるが、この期間に感染者がこれらの媒介蚊に刺咬されると、その蚊は血中のデングウイルスを体内に取り込み、刺咬後 7 日目以降、吸血する際に別の人間へデングウイルスを感染させることが可能になることが知られている。
なお、ヒトからヒトへ直接感染することはないとされている。
日本国内では、現在、ネッタイシマカの生息は確認されていないが、ヒトスジシマカは北海道を除く本州以南地域で広く生息しており、主に 5 月中旬~10 月下旬に活動が見られるため、蚊の活動が活発になる夏季~秋季は特に注意を要する。
また、2014 年の検疫所の報告書 3)によると、成田国際空港にてネッタイシマカの幼虫が発見されたという報告もあるため、海外からの人・物の往来が盛んな場所等では特に注意が必要である。
現時点では国内で利用可能な安全かつ効果が高いと認められるワクチンは存在していないことから、デング熱の予防のためには何よりも蚊に刺されないように心がけることが重要である。
海外へ渡航する者に対しては、パスポートセンターを活用するなどして、蚊媒介感染症の流行地での防蚊対策(肌の露出を控える、虫よけスプレー等の忌避剤を使用する等)を徹底することやヒトスジシマカの活動期においては少なくとも帰国日から 2 週間程度、症状の有無に関わらず、防蚊対策をする必要があることの情報を提供したり、医療機関においては、患者に対してウイルス血症の時期に蚊に刺されないよう指導を行うこと等が予防対策として挙げられる 4)。
■引用・参考
1):デング熱・デング出血熱(国立感染症研究所)
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2):デング熱国内感染症例の積極的疫学調査結果の報告(国立感染症研究所)
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3):2014 年 検疫所ベクターサーベイランスデータ報告書(厚生労働省検疫所)
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4):デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症の対応・対策の手引き 地方公共団体向け(国立感染症研究所_平成 29 年 4 月 28 日改訂版)
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【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和3(2021)年8月4日更新)