2021年05月14日

今週の注目疾患   2021年 18週(2021/5/3~2021/5/9)
【今週の注目疾患】

【薬剤耐性緑膿菌感染症】
 2021年4月に薬剤耐性緑膿菌(Multi-Drug-Resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)感染症が県内医療機関から1例報告された。
患者は40代男性で、喀痰からMDRPが検出された。
本年1例目の症例(定点当たりの報告数は1.11)であり、2017年から2021年までに累計11例報告されている。
性別では男性が8例/11例(73%)で多く、年代別では60代以上が5例/11例(45%)で最も多く見られた。
 国の報告1)によると、2011年以降全国での定点当たりの報告数は2011年の1.02から2018年は0.25と年々減少傾向にある。
一方、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)検査部門の公開情報2)によると、2015年は県内医療機関において74人、2019年は89人からMDRPが分離されており、菌の検出数自体は減少していない。
 当該感染症は感染症法で定点把握の五類感染症として月毎に基幹定点医療機関から患者発生の報告を受けており、県内全ての医療機関の発生状況をリアルタイムに必ずしも反映していないため、発生動向については平時の院内におけるサーベイランスやその他様々なサーベイランスの状況も加味して総合的に評価していくことが重要である。
 MDRPは自然環境、特に湿潤環境に常在する緑膿菌が内因性・外因性の機序によって薬剤耐性を獲得したもので、カルバペネム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系抗菌薬全てに対して耐性を示すため、しばしば治療が困難となる。
また、メタロβラクタマーゼ(MBL)を産生する種類のMDRPはプラスミドを介して耐性遺伝子を他の菌種に伝播することができるため、菌種を越えて幅広く耐性化が進行することが懸念される。
本菌は通常、健常者に対して病原性を示すことはほとんどないが、免疫が低下した患者等に高い病原性を示すため、これら患者が入院する病棟等で本菌を原因とする院内感染が発生すると、致命的になる場合もある。
 平成 26 年 12 月に国から発出された通知「医療機関における院内感染対策について」3)では、MDRP感染症は保菌者も含め 1 例目の発見をもってアウトブレイクに準じた厳重な感染対策を実施するよう求めており、院内感染制御チーム(ICT)を中心に手指衛生、適切な個人防護具(PPE)着脱等の標準予防策や接触予防策の徹底、発生探知時の隔離や周辺の接触者や環境等へのスクリーニング検査の実施、患者転院(退院)時における十分な情報提供等の対策を行っていくことが拡散防止の観点で重要となる。

≪引用・参考≫
1)感染症法に基づく薬剤耐性緑膿菌(Multidrug-resistant Pseudomonasaeruginosa: MDRP)感染症の届出状況、2018年(国立感染症研究所)
>>詳細はこちら
2)厚生労働省院内感染サーベイランス(JANIS)検査部門 公開情報 千葉県2019年1月~12月
>>詳細はこちら
3)医療機関における院内感染対策について(厚生労働省通知_平成26年12月19日医政地発1219第1号)


【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和3(2021)年5月12日更新)