2022年01月21日
今週の注目疾患
2022年 第 2 週(2022/1/10~2022/1/16)
【今週の注目疾患】
≪後天性免疫不全症候群 ≫
2022 年第 2 週に県内医療機関より後天性免疫不全症候群無症候性キャリアが 1 例報告された。
後天性免疫不全症候群の 2021 年の累計報告数は 31 例であった。
性別では男性 29 例(94%)、女性 2 例(6%)と男性が多い。年代別では、40 代が 8 例(26%)と最も多く、20 代が 7 例(23%)、30 代が 6 例(19%)と続いていた。
31 例のうち、AIDS 患者が 14 例(45%)、無症候性キャリアが 13 例(42%)、急性 HIV 感染症が 3 例(10%)、その他(AIDS 指標疾患以外の疾患があるもの)1 例(3%)であった。
累計報告数は、近年減少傾向がみられ、2021 年は過去 10 年間で最も少なかった。
一方、後天性免疫不全症候群の報告数全体に占める AIDS 患者報告数の割合は、2015 年から 2019 年までは減少傾向にあり、2019 年は 27%であったが、2020 年は 39%と増加し、2021 年は 45%とさらに増加した。
2012 年から 2021 年までに報告された後天性免疫不全症候群は 494 例であり、男性が 440 例(89%)、女性が 54 例(11%)であった。
推定感染地域は国内感染が 356 例(72%)と大部分を占めている。
報告に記載のあった推定される感染原因は、男性では同性間の性的接触が 235 例(53%)と最も多い。
次に異性間の性的接触が 88 例(20%)であり、不明が 86 例(19%)であった。
また、少数ではあったが、静注薬物や刺青などが原因として推定されるケースもあった。
一方、女性では、異性間の性的接触が 27 例(50%)と最も多く見られ、23 例(43%)が不明であった。
後天性免疫不全症候群とは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染によって生じ、適切な治療が施されないと重篤な全身性免疫不全により日和見感染症や悪性腫瘍を引き起こす状態をいう。
近年は治療薬開発が進み、早期に治療を受ければ通常の生活を送ることが可能となってきている。
しかし、無治療や服薬を中断すると、CD4 陽性 T 細胞が減少し AIDS 発症へと至る1)。
HIV の主な感染経路は、①性的接触、②母子感染(経胎盤、経産道、経母乳感染)、③血液によるもの(輸血、麻薬・薬物の静脈注射など)がある。
血液や体液を介する接触がない限り、日常生活では HIV に感染する可能性は低い1)。
性行為による感染は最も多く、HIV は感染者の血液・精液・膣分泌液から、性器や肛門、口などの粘膜や傷口を通って感染する。感染を予防するワクチンはなく、性行為におけるコンドームの正しい使用や血液が付着する可能性のある器具を共有しないことなどが重要となる2)。
HIV 感染の自然経過は感染初期、無症候期、AIDS 発症期の 3 期に分けられる。
HIV 感染成立後の 2~3 週間後に HIV 血症はピークに達する。
この時期には発熱、咽頭痛、頭痛などの症状が出現する(感染初期)。
この時期に診断ができるとその後の治療や経過に圧倒的に有利になることから、アクティブな性行為感染症(梅毒、淋病など)とこれらの急性感染症状が同時にある時には、HIV 感染を疑うことが重要である。
無症候期を経て、数年~10 年後、HIV 感染が進行すると CD4陽性 T 細胞が急激に減少する。
CD4 リンパ球が 200/μL 以下になるとカリニ肺炎などの日和見感染症を発症しやすくなり、50/μL を下回ると通常の免疫状態ではほぼ起こらない日和見感染症や悪性腫瘍を発症する(AIDS 発症期)。
治療には早期診断、早期治療開始が最も重要である1)。
保健所において無料・匿名の検査を実施しているとともに、昨年 10 月からはちば県民保健予防財団への委託による検査を毎月実施しているため、受検を希望する方は活用されたい。
なお、最新の検査実施状況については、県ホームページ等でご確認いただきたい3)。
早期診断に重要な役割を果たすのが保健所等における HIV 検査であるが、2020 年からの新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、やむを得ず業務縮小や中止を迫られている地域や検査機関もある。
近年 AIDS 患者の発生割合の増加傾向がみられており、検査機会の減少等の影響で、無症状感染者が診断に結びついていない可能性に十分留意する必要がある。
2020 年からの HIV 検査機会減少は現時点での未診断者の増加のみならず、今後新たに感染する人の増加、数年後の新規報告数の増加などに繋がることが懸念される4)。
■参考
1)国立感染症研究所:AIDS(後天性免疫不全症候群)とは
>>詳細はこちら
2)エイズ予防情報ネット:エイズ Q&A
>>詳細はこちら
3)千葉県:エイズ・性感染症関連情報
>>詳細はこちら
4)国立感染症研究所:IASR Vol. 42, No.10 (No. 500) October 2021
>>詳細はこちら
【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年1月19日更新)