2022年09月02日

2022年 第 34 週(2022/8/22~2022/8/28)

【今週の注目疾患】
■マラリア
 2022年第34週に県内医療機関からマラリアが1例報告された。
病型は熱帯熱マラリアであり、アフリカ地域への渡航歴があった。
 2013 年から 2022 年第 34 週までに県内医療機関からマラリアの報告が 29 例あった。
性別では男性 22 例(76%)、女性 7 例(24%)と男性が多く見られ、年代別では 30 代が 9 例(31%)、20 代 7 例(24%)、40 代 6 例(21%)と 20~40 代の若年層の患者が約 8 割を占めていた。
病型別では熱帯熱が 23 例(79%)、三日熱が 1 例(3%)であり、不明が 5 例(17%)であった。
29 例全てに渡航歴があり、推定される感染地域は国外であった。

 マラリアは感染症法に基づく 4 類全数把握対象疾患である。
蚊媒介感染症であり、亜熱帯・熱帯地域を中心に感染者数が多く、非流行地から旅行地を訪れる旅行者でも問題となる 1)。
世界保健機関(WHO)の直近の報告書によると、2020 年に世界 85 の国々で約 2 億 4100 万人のマラリア症例が発生し、約 62 万 7000 人の死亡者が発生したと推定されており、全症例の 95%をアフリカ地域が占めていた。
発生数が特に多い国としてナイジェリア(27%)、コンゴ民主共和国(12%)、ウガンダ(5%)、モザンビーク(4%)、アンゴラ・ブルキナファソ(いずれも 3.4%)等が挙げられていた 2)。
旅行者が帰国してから発症する例も多いが、マラリアに対して免疫がない旅行者では、診断・治療の遅れで致死的となるので、的確な治療が求められる。
輸血、針刺し事故などによる感染も起こり得るので、検査検体を取り扱う際は注意を要するが、日本国内では、1991 年の輸血マラリアを最後に、輸入例以外の報告はない。
推定感染地域がアジア地域の感染例では三日熱マラリア、アフリカ地域の感染例では熱帯熱マラリアが多い 1)。

 マラリアの病原体は Plasmodium 属の原虫である。
ヒトに感染して問題となるのは、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)のほか、P. knowlesi のヒト感染例も報告されている1)。
 マラリア原虫は、メスのハマダラカが産卵のために吸血する際に体内に侵入する。
三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫の場合には、肝細胞内で休眠体が形成された後、長期間経過してから分裂を開始して血中に放出され、症状が再発することがある 1)。

 潜伏期間は熱帯熱マラリアで 12 日前後、四日熱マラリアで 30 日前後、三日熱マラリアと卵形マラリアでは 14 日前後である。
何度もマラリアに罹患して免疫を得ている人では、発熱の症状が軽度しかみられないこともある。
また、三日熱マラリアでは、免疫がない人でも 1 年以上はっきりとした症状もなく過ごすことがある。
典型例では、潜伏期間後、悪寒、震えとともに発熱する。
発熱に伴い、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などがみられるが、腹部症状(悪心・嘔吐、下痢、腹痛)や呼吸器症状が目立つ場合もある 1)。
 熱帯熱マラリアが感染した赤血球は、表面に種々の原虫由来物質を表出するので、血管内皮への血球固着が多臓器不全を起こす。
重症化すると脳症、腎症、肺水腫、DIC 様出血傾向、重症貧血、低血糖などの合併症を起こし、致死的となる。
近年、三日熱マラリアでも呼吸器症状などの臓器障害を合併する例が報告されており、注意が必要である 1)。

 マラリア予防の最善策は、マラリア流行地で蚊に刺されないようにすることである。
長袖・長ズボンを着用し、できる限り肌の露出を少なくすることが重要である。
虫よけスプレーやローションも有効である。
濃度によって効果の持続時間が異なるため、こまめに塗る必要性など、予め製品情報を確認しておく。

 マラリアには予防薬もあり、マラリア流行地に渡航する際には、抗マラリア薬の予防内服を行うことが望ましいとされている。
マラリア予防薬は医師の処方が必要であり、渡航先の流行状況や滞在期間、活動内容、基礎疾患の有無によって適応となる予防薬が異なるため、事前に専門医と相談し、指示に従って服用する。
なお、予防薬を服用していても感染することはあるため、防蚊対策は必要である 3)。
 マラリアと診断された時には抗マラリア薬を投与するが、感染した地域やマラリアの種類によって使用する薬剤は異なる 3)。
マラリアを疑う症状が出た場合には速やかに医療機関を受診し、自身の渡航先や活動内容、予防内服の有無等を伝えることが重要である。

■手足口病
 警報発令継続中(警報開始基準値 5.0 終息基準値 2.0)
 2022 年第 34 週手足口病定点当たり報告数 県全体 3.79 (人) 前週 3.53(人)から増加
第 27 週に警報開始基準値である定点当たり報告数 5.0(人)を上回って以降、県内では警報発令状況が続いており、感染予防として手洗いの励行等が重要である。

■参考
1)国立感染症研究所:マラリアとは
>>詳細はこちら
2) WHO:World malaria report 2021
>>詳細はこちら
3)厚生労働省検疫所 FORTH:マラリアについて
>>詳細はこちら

【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和4(2022)年8月31日更新)